第12回 理事長解任

2018.03.01
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何年振りだろう? 久々に時代小説の快書に出会いました。

それは、たまに顔をだす地元図書館で偶然に見つけた高殿 円さんの「主君 井伊の赤鬼・井伊直政伝(文芸春秋)」です。大河ドラマの影響で井伊直政にもスポットが当たり、彼の生涯や武勇伝をまとめた本が多数出版されていますが、本書は家康からの命令により付け家老となった木俣守勝の視点、心の葛藤から主君・井伊直政の実像に迫ろうとする野心作です。

家康に対する全く揺るぎない忠誠心、家康からの絶対的な信頼、徳川家の重臣にして余人に代わる者なしの立場に拘らず、戦場では常に単騎先陣を切り危険を顧みない直政の哲学。

これらの源泉を木俣守勝と共に探していく推理小説のようでした。直政の死後、守勝は直政の故郷でようやく「そこ」にたどり着き、自己の不忠を恥じ号泣するのですが、気が付いたら私も一緒に泣いていました。

ところで、昨年12月18日最高裁判所第1小法廷で、管理組合の理事長の「身分」に係る重要な判決がありました。

理事長を理事会役員の多数決だけで「解任できるかどうか」が争われていたのです。裁判長は、「理事を組合員のうちから総会で選任し、理事の互選により理事長を選任する」と定められた管理規約がマンションにある以上、「理事の過半数の一致により理事長職を解任することができる」とする判断を示し、解任を認めなかった高裁判決を破棄しました。

理事長の解任をめぐる事件が起きたのは福岡県久留米市のマンション。2013年1月の設立総会で役員に選任され、その2カ月後の理事会で互選により理事長に選任されました。彼は半年後の理事会で管理会社変更を議題とする臨時総会の開催を主張し、独断で総会の招集を通知しました。そのためその後の理事会で理事長職を解かれたのです。この解任決議には役員14人のうち10人が賛成しました。

翌年の総会で役員(理事)も解任された彼は、一連の理事会決議(理事長解任)・総会決議(役員解任)の無効確認を求めて提訴に踏み切りました。第1審の福岡地裁は、「管理組合の規約に理事長の選任手続規定はあるが、解任の手続規定がないのだから、解任は無効」と判断し、元理事長の主張を認めました。その後の第2審福岡高裁も理事長の主張を認める地裁判決を追認していました。これが最高裁判決に至るまでも経緯です。

マンションにおいては、建物・敷地等を共同で管理し、その使用に関しては区分所有者間で様々な意見の調整と集約を図らなければなりません。そのために区分所有者が相互に遵守すべきルールが必要であり、マンションの自治規範として「規約」がそのルールとなります。世の中に流通しているマンションの規約のほとんどは、標準管理規約に準拠しています。その標準管理規約では、役員(理事、監事)はマンションの総会で区分所有者により選任され、理事会で互選により役職(理事長、副理事長、会計担当理事等)を決定することになっています。

しかし、解任については規定がなく、特に理事長の解任をめぐる争いは少なくないのです。実際に私も現場で意見を求められる体験を致しました。ですから、理事会で理事長を解任できるか?という問題は、学者同士の論争に留まらず、マンション管理の最前線で各種業務に当たる者の間でも解釈が分かれるものだったのです。

この度の最高裁の判断を、マンションの業界の人たちはどんなふうに受け止めたのかを紹介します。

当然で真っ当な判決と肯定的に見る側の意見としては、「最高裁の判断は当たり前。選任した所が解任もできるのが一般的である。取締役会で代表取締役を選任も解任もできるのと一緒である。理事の互選で理事長が選任されている以上、解任事由があれば解任できるという話だ。事実上、解任された瞬間に管理者がいないマンションになるが、同時に新理事長を選任すれば管理者不在の空白は生じないから問題はない。」というのが代表的なものでした。

片や、最高裁判断を懸念する声も多数あります。「理事長の解任劇が起きるのは、管理会社の選定や大規模修繕工事の際の工事会社の選定など大きなお金が絡むときが多い。これらを背景にした理事会の紛争を一般の組合員が知らないうちに解任されてしまうのはおかしい。組合員が事情を知ったうえで判断する機会(総会)が与えられるべきではないか。」

この主張は更に説得力を増して続きます。

「規約に理事長解任の規定がないときは、マンションの基本法である区分所有法に戻って考えるべきではないか。」

区分所有法と標準管理規約の規定

1、区分所有法第26条第2項、

「管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する」

2、標準管理規約第38条第2項

「理事長は、区分所有法に定める管理者とする」

3、区分所有法第25条第1項

「区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によって、管理者を選任し、又は解任することができる」

これらの規定により、区分所有法は<理事長=管理者>としているのだから、理事長の解任には総会の決議が必要であり、理事会の決議のみでは足りない!という考え方です。最高裁の判決は前者の主張を代弁するものであり、第1審及び第2審の判決は後者の主張に根拠を置くものであると思います。読者の皆さんは、この対立する意見にどんな感想をお持ちになりましたか。

理事長は、区分所有者を代理し、管理組合を代表する存在です。対外的にはマンションの代表者であり、マンション内では唯一代理権を有し、管理組合の業務を統括する職務権限者ということになります。統括とは、管理組合の業務を指揮し、総合調整し、一つの方向に取りまとめていくことをいいます。つまり、マンション内の取り組むべき課題に優先順位を付け、人間関係を調整しつつ、解決のための健全な議論と合意の形成を図っていく、私はそのように理解しています。

理事会の審議では、使命感のあまり、人の感情抜きで正論だけを無理押しして、逆に後味の悪い結果を招いているケースをよく見かけます。今回の久留米市のマンションでも、これに近い光景があったのかもしれません。

私自身も「理事長解任」劇の貴重な現場に立ち会い、その緊迫した一部始終を今でも忘れることはできません。資格上及び職務上、守秘義務を負っているので理事会の顛末を語ることはできませんが、解任後の新理事長の下での理事会はどんよりと気まずいものでした。解任された理事長が、解任後も1人の理事としての職務を全うすると宣言されて、理事会に出席し続けたからかもしれません。

過去において、拠りどころとする立場、立場で議論が分かれるデリケートな問題でしたが、最高裁で明確な判断が示されましたので、今後標準管理規約が見直され、選任だけでなく「解任」も理事会の多数決で決議できるという規定が入ってくることになるでしょう。

マンション管理士・行政書士白寄和彦事務所
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