第13回 遅延損害金はどうしていますか?

2018.04.18
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2月半ば、顧問弁護士を訪ね、横浜、日本大通りに行きました。

事務所の応接室に通され腰を下ろすと、眼下に赤れんが倉庫があり、腑観で眺めることができました。文化遺産は、冬の重い雲と無機質な高層ビル、そして湾曲した灰色の海のとっつきに挟まれて窮屈そうにしていました。しかし、存在感はやはり際立っていて、孤高の風があり、ほうじ茶と共に、暫しご馳走でした。

訪問の用件は、私がまとめた「最強の規約」の最終稿を弁護士の立場でチェックしてもらい、専門家としての意見を聴くためでした。最強の規約とは表現がオーバーですが、標準管理規約をベースに現場で積み上げた知見を取込んだ独自のもので、結構な自信作なのでそう呼ぶようにしています。今後のご指導をお願いしつつ辞去しようとしたところ、弁護士から逆に私に相談があるのだと言うのです。

「遅延損害金はどうしていますか?」

弁護士が発した遅延損害金とは、区分所有者が決められた期日までに管理費等を支払わなかった場合に、そのペナルティとして管理組合に支払うことになる損害金のことです。

その根拠となるものは、区分所有者の合意=約束事である「規約」にあり、サンプルとして利用されている標準管理規約にもしっかりと明文化されています。

(第60条2項)

組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理組合は、

その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用

並びに督促及び徴収の諸費用を加算し、その組合員に請求することができる。

もし管理規約に遅延損害金の定めがなかった場合であっても、法定利息の5%の損害金を請求することは可能です(民法419条)。しかし、より高い利率の損害金を求めようとするならば管理規約に具体的な数値を定める必要があります(民法420条)。私が知っている一般的な管理組合では、年利10%、14.6%、15%、18.25%のいずれかの利率を採用していることが多いです。最近では14.6%(日歩4銭)に収れんしつつあるようで、消費者契約法で定める上限利率や国税徴収法で定める税金の滞納利率が背景にあるのかと推察しますが、それ以上のことは承知していません。

読者の感想としては、超低金利時代の現在、14.6%はかなりの高利率で、ペナルティとしては重すぎるように感じることでしょう。しかし、滞納管理費等の回収には時間や手間、費用が相当かかり、複数の滞納者が存在するマンションは自ら資産価値を大きく毀損してしまうことになりますから、滞納を予防する意味で心理的抑圧となるペナリティが必要となるのです。また、マンションの管理費等を滞納する区分所有者は、他の債務の弁済も滞納している可能性が高く、遅延損害金の利率の低い弁済は後回しにしようとする心理が働きます。滞納管理費等の弁済を後回しにされる危険を避けるためには、14.6%の利率の設定は合理的なものと受け入れられています。

最初、顧問弁護士と私の会話は噛み合いませんでした。良く聞いてみると、弁護士の質問である「遅延損害金はどうしていますか?」の真意は、管理組合が一般的に遅延損害金を滞納者に請求するに及んでいるのかどうかではなく、長期間滞納した管理費等の一部に支払いがあった場合、その金額を滞納した元金、遅延損害金、費用のうちどの順番で充当しているかを質問しているのでした。

滞納者が管理組合に対して滞納額の一部を弁済した場合、その充当には民法で順位が定められています。まず優先されるのは、滞納者と管理組合との「合意」です。しかし、両者の間では管理費等の滞納など始めから想定していませんから、上記で紹介した標準管理規約にも定めはありません。規約に定めがないのですから、両者に充当の順位に関して合意はないのです。合意がない場合、一部弁済された金額は「費用、利息、元金」の順で充当しなさいと、民法491条1項は定めています。遅延損害金は利息の範疇とみなされて、費用に次に充当し、滞納した元金は遅延損害金に劣後して最後に充当することになるのです。

「合意」がない場合の充当順位(法定順位)をまとめると、下記のようになります。

①費用(配達証明付内容証明郵便による督促に要した郵便代や事務手数料・支払督促申立その他法的措置に伴う費用等)

②遅延損害金(14.6%)

③支払い期限の一番古い滞納管理費等

④支払い期限の二番目に古い滞納管理費等

顧問弁護士が私にアドバイスを送っているものは、規約第60条に条項を追加して、充当の順位を①滞納した元金⇒②費用⇒③遅延損害金とする区分所有者と管理組合の「合意」を明文化することです。規約にこの条項がないために、理事会で遅延損害金の処理をめぐって、複数の管理組合で少なからず混乱と不毛の議論が起こっているというのです。

長期間の滞納者がようやく支払いを再開し、滞納額の一部を支払ったとします。理事長や管理会社の担当者は、当然のように支払い額を滞納した元金の一部に充当する前提で、完済計画の概況を理事会で発表します。また、言及はしませんが、遅延損害金の請求について「できる」規定なのだから、請求しなくても規約に反することにはならず、そもそも予防を目的としたペナルティ規定なのだから免除する選択肢もあると思っています。理事長は、少しでも滞納額を減らし、かつ、早期に滞納者をゼロにしたいと思っていますから、遅延損害金のことよりも管理費等の回収業務が着実に進捗している事実に価値を見出しているのです。

しかし、そんなとき、金融機関等に勤務されているのか?民法に明るい理事から、規約による「合意」がないのだから、法定順位に従い「費用及び遅延損害金への充当を優先すべし」との意見が出されたというのです。また、理事は遅延損害金を実際に請求し、実(ジツ)をあげなければ真の予防措置を講じたことにはならないとも主張します。

早急に滞納者の問題を解決し、マンションの資産価値を毀損させないことが自己の職務であると考えている理事長。片や、規約に明記されている遅延損害金を請求するのはもちろんで、元金よりも先に回収すべきと主張し原則に従おうとする理事。これらの考え方は対極にありますが、両者はどうにか折り合いをつけ、理事会がソフトランディングするにはするでしょうが、それなりの時間と議論及び手間がかかることは間違いありません。

かなり悪質な滞納事例に精通している顧問弁護士にとっては、わずかでも滞納額を支払う姿勢を明らかにしている善良な滞納者の場合、管理組合が端から遅延損害金という負荷をかけること自体、「木を見て森を見ない」所業に映るのでしょう。

理事会は、マンションの居住性を高め、将来に渡って資産価値を維持してくという重要な業務を担う執行機関です。顧問弁護士は、理事の方々に遅延損害金のような組合運営の核心とは思えないような議題で虚しい対立を招じさせ、理事会が空転することがないよう、「なお一層規約の整備に努めなさい!」と私に示唆しているのでした。

マンション管理士・行政書士白寄和彦事務所
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