第21回 地面師事件エフェクト その1

2019.02.16
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昨年の12月から新年にかけて、長年在籍していたS社のOBやら、かつての同僚、部下たちが激励会を催してくれて有難く出席いたしました。かなり久しぶりの元社員や現役社員もいて、どの会も昔話に花が咲いて、和やかに旧交を温める予想通りの展開を見せていました。

OB会では、私が退職し開業してから間もないということもあって、皆さん興味津々で、栃木県ではまだ知名度の低いマンション管理士の仕事内容やマンション特有の居住者間トラブルなどについて、突っ込んで聞かれました。

また、諸先輩は、この分野では未開地の北関東で、実際仕事はあるのか、将来性や報酬はどうか、営業力は錆び付いてないかとか種々心配もしてくれました。
年金暮らしの方々に同情してもらったり励まされたり、苦笑せざるを得ませんでしたが、彼らとの変わらぬ絆を確認できて心強い思いをしました。

OB会は各人が趣味や健康増進、家族の近況を語ったところで盛り上がりのピークを迎え、暫し沈黙を挟みながら、話題は必然的に昨年から1年以上に渡って派手に報道されている「地面師詐欺事件」に移っていきました。

私の場合、S社が販売するマンションの管理会社の顧問に就任していた関係で、この事件の舞台となった五反田の土地の状況や土地取得後のS社の目論見については知り得る立場にあったので、他人事とは思えず、どんな着陸を迎えるのか気を揉んでいるところでした。

良きにつけ悪しきにつけ彼らは人生のかなりの時間をS社で消費したかもしれませんが、会社のお陰で、家族を作り養い、定年まで勤めあげ、その人なりに人生の目標を達成することができた、まさに運命共同体であった会社が史上最大と言われる地面師詐欺事件の当事者(被害者)になったのです。

一時は毎日のように社名がテレビニュースで連呼され、詐欺師メンバーが一人二人と逮捕されるたびに、こんな人相の悪い連中に本当に騙されたのかと首を傾げたものです。

OBたちは、かつての会社人脈網を駆使して入手に努めた結果なのか、それとも意図はなく本社を含めた全国各所から自然にもたらされたものなのか、私より遥かに内容の濃い事件情報をすでに得ていて、驚きました。

彼らは、各人静かに、事件への思いを語りだしました。
ただ思いの他、起きてしまった事件を嘆く沈んだ発言や後輩たちの不甲斐なさを叱咤するコメントは少なく、各人が自分なりに冷静に情報の集約や分析を済ませていて、切り口鋭い発言に重みがありました。

また、会社が奈落にあって反省も表さず、今なお弁解と権力争いに終始する本社役員を厳しく断罪しつつも、愚直に日々の業務にうち込む現場の社員たちを労り、限りないエールを送る真の会社愛は今なお健在で、彼らの言葉は心に沁みました。

S社が歩んできた道がそのまま自分の人生であったのだから、S社が傷つき血を流せば、自分も同じ痛みを感じざるを得ない、彼らの心象を私はそんなふうに想像しました。

OB会がフィナーレにさしかかったとき、私のかつての上司が「できることなら、もう一度会社の分岐点となった過去に戻って仕事をやり直してみたい。」と胸底を吐露すると、複数のOBが「よくわかる。実は俺も同じ思いだ!」と阿吽の呼吸で応じていました。

この上司は仕事上の妥協を決して許さない人で、当時若手社員から恐れられていました。
「簡単に諦めるな!営業は断られてからが本番だ。もう一度お客にお願いして来い!」と叱られるのは日常で、私のようなひ弱な社員はお客に甚だ迷惑な「夜討ち作戦」でメンタルを徹底的に鍛えてもらいました。

でも、「上司が過去に戻る」ということは、永く彼と会社人生を歩んできた私も共に仕事をやり直すことになるわけで、そう思ったら忘れていたかつての恐怖が甦ってきて、ふっと昔に観た映画「バタフライエフェクト」の世界を想い起こしました。

映画は青春映画でしたから、これはさながら老人版バタフライエフェクトといったところでしょうか。

映画ファンなら誰でも知ってる有名な映画で、改めて私が紹介するほどの隠れた名作というわけではありませんが。

主人公は少年時代に記憶が突然飛んでしまう奇病を抱えていました。医者は主人公に日記を書くことを勧めます。大学生になった主人公は、日記を読み返し記憶を取り戻すとともに、自分には過去と現在を行き来することで未来を変える能力があることを知ります。

そして、「必ず君を迎えに来る」と約束したにも拘わらず、それを果たせないまま、不幸な境遇で喘ぐ幼馴染の少女を救うべく、過去に戻って悪戦苦闘しながら、自らの人生をやり直すのです。

しかし、なかなか彼の思いどおりに行きません。
彼女を幸せにすれば、周囲にいる別の誰かを不幸にしてしまうのです。
すべてを円満にするためのパズルは容易に解けません。

過去の一人の行動が他の人間の未来に大きな影響を及ぼすことを、主人公は知ることになります。果たして彼は真の分岐点を見つけて最良の選択をすることができるのか? 
そんな内容です。

「痛恨の不祥事だな!」

「S社とあろう会社が、本社ぐるみで60億も詐欺集団に騙し取られるとは。
昔は臆病なくらいチェック機能(営業本部・法務部)は効いていたはずだ。
いつからこんなに脆弱になったんだ。」

「地面師たちは10人以上で構成されている大がかりなものだった。」

「犯行計画を立てる主犯格の切れ者をトップとして、なりすまし役に演技指導する教育係、なりすまし役を探してくる手配師、免許証やパスポートの書類を偽造する印刷係、振込口座を用意する銀行係等で構成される本格的な詐欺師グループだったらしい。」

「土地情報が入ってからすぐにA社長(当時)自身が現地を視察に行ったと聞いている。
まず社長が前のめりになったようだ。」

「だから社内ではこの土地を社長案件として扱い、稟議は形式的なものになった。
逆に慎重な発言は社長の意志に背くことになるから、どれだけ裏取りできたかは疑問だ。」

「いや、もともと開発事業やマンションの用地を仕入れる場合、ゼネコン若しくは銀行から持ち込まれることが大部分で、すでにフィルターがかかっているから、自社で裏取りすることはほとんど必要ない。
マンションの部署には土地所有者と直取引できるプロの社員はいないはずだ。」

「戸建受注は客単価が高いので地方では特に厳しい。
カバーしてきたアパートもローン審査が厳格化されて急ブレーキがかかって来た。
開発事業やマンション、ストック事業といった非コア事業の利益が決算を支えているのが実情だ。」

「D社の背中が遠のくばかりだ。
社長が焦って、のめり込むのも腑に落ちる。」

「情報によれば、今回の五反田の指値はかなり相場を下回っていたらしい。
疑うべきだった。
マンション事業の責任者Mが功名心にはやって、社長を煽ったのだろう。」

「地面師たちは打ち合わせの途中で何度もヘマをしている。
他の数社では疑念を持たれ交渉を打ち切られている。
また、交渉の終盤では本社に何通も警告文が送られてきているのに、それらをライバル会社による妨害行為だといとも簡単に断定してしまう。
これこそ観たい景色しか観ない我田引水の思考だ。」

「実際に交渉に携わった社員に聞くと、一般の取引ではあり得ない妙な違和感がズっとあったと言っている。」

「だけど、社長案件とは社長自身が稟議の発案者になるということだ。
確たる証拠がなければとても下の者から言い出せるものではない。
交渉の終盤ではマスタープランができているし、社内的に期待値が増すから、容易に引き返せるものではない。」

マンション管理士・行政書士白寄和彦事務所
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