第26回 総会当日に少しでも自信が持てれば その2

2019.07.07
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我々はどうして総会当日の運営にあまり自信がないのでしょう。
幾つか原因は思い浮かびます。

まず、我々が議長の権限や突然の動議の取扱を含めて、総会当日の運営に関する知識や経験の不足が挙げられます。

知識に関していえば、商法や会社法にはそれらについて具体的に詳細な規定があるのに対して、区分所有法には具体的な定めはなく、総会に関する判例も未だ少ないことから、勉強したいという気が合っても勉強しようがありません。

おそらくマンション管理士の試験にも出題されたことがないのではないでしょうか。
区分所有法を補う役目の各マンションの規約においても、総会の運営全般に関する手続規定を置いているマンションなんて聞いたことがありません。

総会や理事会で、会社法における株主総会関連の規定や判例を引用してお話をされる出席者がいらっしゃいます。確かに、総会の合議の在り方や運営ルールについては基本的に同じですが、事例によってそのまま適用できない場合も数多くあります。

営利を追求し配当を期待する株式会社とは違い、共有財産の維持・管理を目的とする「権利能力なき社団」としての性格から、マンションにはそぐわないとか馴染まないものとして取り入れられない規定や定着しない制度が相当にあります。

やはり、株主総会を裏方で支える総務部担当者のように、信頼を寄せる弁護士や経験豊富な諸先輩方に教えを請い、総会の都度想定しうるリスクに万全の準備を敷いて、そして恥をかきつつ、苦い経験を積み重ねていく以外マスターズへの道は無さそうです。
私のように時間のない初老の者には少々残念なことですが。

今回のテーマは「議長が動議をどのように取り扱えばよいか」ですが、その前に総会の主役と言っていい「議長」の総会当日の権限と「動議」の基本的なことを若干説明いたします。

総会で、議長はまず議題ごとに議案を上程し、その議案について提案者(理事会)から説明を行います。次に、出席者から質問を受け付け、議長は理事会メンバーの中で回答者を指名し回答をさせます。
さらに議案について出席者が意見を述べて、場合によっては理事会からまとめの発言をさせて、意見が出そろって期が熟したと判断に至った時に議長は採決を行います。

これが総会の基本的なルーティンワークですが、他方、総会の進行に責任を有する議長は総会の秩序を維持するための秩序維持権や議事を整理するための議事整理権を有し、適宜にこれらの権限を行使します。

代表的なものとしては、
1、総会の開会及び閉会の宣言
2、出席者の発言の許可及び制限
同じ出席者が同じ趣旨の意見ばかりを繰り返すことによって、他の出席者が意見を述べられなかったりすることがないように発言時間や質問数を制限して公正で円滑な進行を図ります。

3、出席者の退場命令
不規則発言(ヤジ・罵声)をする出席者に対して発言を制限し、また、命令に従わない者その他総会の秩序を乱す者に対して注意又は勧告を行い、最終的に退場を命じることができます。
4、質問に対する回答者(理事会メンバー)の決定
5、審議順序の決定
 場合によって審議・可決すべき議案の順序を入れ替えます。

6、質疑打ち切り及び続行
質疑打ち切り等の際どい決断をせざるを得ないときは、会場から質疑打ち切りの動議を提出してもらい、それを採決するといった方策を採るのが賢明と思われます。
7、採決方法の決定、

その他に、株主総会で議長の裁量に委ねられているものに議案の「審議方式」があります。
それは議案の「一括審議方式」と「個別審議方式」と呼ばれていて、どちらの方式も適法であり、議長自身が選択することになります。

一括審議方式とは議案すべてを一括して審議・質疑した後に採決を順次行う方式であり、個別審議方式とはそれぞれの議案に対して個別に審議・質疑・採決を何度も繰り返し行う方式です。現在の株主総会で主流になっているのは一括審議方式で、個別審議方式を採用している会社は数える程だと聞いています。

しかし、私は一括審議方式を採用しているマンションの総会に出席したことがほとんどありません。

私の周辺では個別審議方式が長年の慣習になっていて、これを疑ったこともないということで、特別の事情や区分所有者の強い要望がない限り一括審議方式はまるで禁じ手のような扱いです。私は一括審議派で、個別審議派の方々は従来型で食わず嫌いのように思えてなりません。

個別審議方式では、個別の各議案の審議に沿った質問しか受け付けることができず、異なる議案に関する質問があった場合には、後回しにする必要があり、微妙な質問のたびに議長は議題との関連があるのかの判断が求められ面倒です。

また、個別審議方式では、議長が発言回数を制限しても各議案の審議のたびに出席者が質問できるので、別の議案の審議に移るとまた同じ出席者が質問を繰り返すため、審議時間が長時間化する傾向にあります。

私見ですが、議案ごとに逐一議案説明・審議・質疑・採決を繰り返す個別審議方式は、一見丁寧な総会運営を装ってはいるが、実態は非効率そのもので、特に若い世代の区分所有者が毎年かわり映えしないマンネリ総会に飽きていることを直に耳にします。

一括審議方式の方が出席者は審議や質疑に集中することができ、対して議長は審議時間をコントロールしやすく、総会全体を俯瞰してメリハリのある総会を運営できると私は思っているのですが。

動議には、総会運営または議事進行に関する動議である「形式的動議」と、議案に対して修正を求める「実質的動議」の2種類があります。

提出できるのは出席している区分所有者またはその代理人及び議長ですが、議長は議事整理権の公正・中立の行使という立場から動議の提出は好ましくないと解されています。

動議の提出は、原則として総会が開会すればいつでも提出できますが、議長は議事整理権に基づいて動議の提出時期を指定できます。そのため、総会の冒頭で、議事進行の注意点として動議の提出時期を議案の説明の後から採決を行うまでの間と指定し、期間を限定することができます。

出席者の発言が動議なのか意見なのか、単なる感想なのか不明瞭である場合がままあります。その際、議長は出席者に対し発言が動議であるか否か確認してください。
なお、動議でなく意見等である場合は、意見を給わったことについてお礼を申し述べて終わらせて構いません。

では、議長は動議をどのように取り扱えばよいのでしょう。

H弁護士のお話では、およそ会議体と呼べるものにおいて、会議の構成員が動議を提出することは議決権の行使と認められていて、これを規約等で奪うことはできないということです。ましてや、議長が職権で奪うことは裁量権の逸脱を意味します。

議長には広範な裁量権が認められていますが、議長の裁量や議事進行に不満がある場合、出席者は議事進行に関する動議(議長不信任の動議等)を提出することになります。

この種の動議が出された場合、議長は原案議案に先立ってこの動議を採決しなければなりません。また、その際に動議を取り上げるかを諮ったうえで採決する必要はなく、討議をして直接採決して問題ありません。総会に現実に出席している区分所有者及び代理人の議決権の過半数で決します。。

議案の修正動議については、まず「会議の目的たる事項」いわゆる「議題」の範囲を超える動議は修正動議の対象にはなりません。議長は議題の範囲内なのかを判断します。

例えば、議題が「管理費増額の件」であれば増額幅を修正することは動議の対象になりますが、増額の議題であるにもかかわらず減額の動議を取り上げることはできません。

範囲内であるならば審議を行うことになります。動議を取り上げるべきかどうかを出席者に諮ることはせず、早速動議提出者から提案理由を説明してもらい、討議に入ります。

討議をする際には、原案議案と比較し出席者が理解を深めるためにも、両議案を同時に審議する方が良いでしょう。

議長は審議が尽くされたと判断した段階で採決を行いますが、動議を原案議案よりも先に採決することになります。

株主総会では原案議案を先に議場に諮って可決し、これにより修正案(動議)を否決したとみなし、特に修正案については改めて議場に諮らない取扱いをすることが一般的ですが、これもマンションの総会には馴染まないところです。先に動議の採決です!

実際のところ、委任状や議決権行使書が総会出席者よりも圧倒的に多く、原案議案が可決される公算が高いので株主総会のように原案議案を先に可決したほうが合理的であることは承知しています。

しかし、少数派の意見表明(動議)を認めて、できる限り尊重する総会運営を行うことが肝要であると思います。

仮に動議を先に採決してそれが可決された場合は、原案議案は動議によって修正されたものとします。ここで修正された原案議案を再度採決にかけて確認をとります。

「こうして念には念を入れることも総会には重要ですよ」とH弁護士はおっしゃいます。

マンション管理士・行政書士白寄和彦事務所
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